開演なう?

 インフルエンザになった。2月インフル真っ盛りの時期に母がインフルになって看病していたときはまったくそんな気配なかったくせに、あんまりだ。これを書いている時点で発症から一週間経過しており、昨日医者にも「明日から出勤してよし」とのお墨付きをもらっている。しかし社内規定で、医者の診断と会社への報告から一週間は出勤停止という決まりがあるため、ほとんどずる休み状態だ。申し訳なく思いながら、自宅待機という名目の仕事であるためにお出かけもできず、持て余すばかりだ。

 このインフルのせいで潰れた予定が3つある。ひとつは仕事がらみだったので潰れても構わなかったのだが、あとのふたつは悔やんでも悔やみきれない。

 ひとつはbainchild’sのライブだった。THE YELLOW MONKEY菊地英昭氏率いるバンドである。このたびFoZZtoneの渡會将士氏がボーカル抜擢され、私も昨年の2月をもってフォズが活動休止に入ってしまったために、一年ぶりに渡會氏が観られると勇んでチケットを取りに行ったものだった。しかし病院でインフル診断がくだったのは金曜日。ライブは土曜日。絶望的だった。チケットを誰かに譲ろうにも私はどこにも行かれないし、前日では郵送でのやりとりも無理だ。職場でよくイエモンの話をしていた人に譲ろうかと、体調不良を感じ始めた時点で頭によぎってはいたのだが、何を隠そう私はその人からインフルをもらったのだった。私は何を憎めばいい。

 ライブハウスという人の密集地帯に、いくら体が動くからといってインフルエンザを患っている人間が突撃するのはテロ以外の何物でもないので、無理を押していくなんて言う選択肢ははなから当然存在していないのだが、あきらめをつけるのは難しい。今回のbainchild’sは「7期生」と呼ばれているように、bainchild’sは様々な人をメンバーとしている、実験要素の強い変則的なバンドだ。そのため、渡會氏がボーカルとして参加しているbainchild’sを観る機会というのは、考えたくはないがおそらくきっと、もうない。しかもツアーは私が参加する予定だった場所でファイナル。救われない。運気が落ちているように思われてならない。何もかもはしょうがないことだ。時間をかけてあきらめていくしかない。

 もうひとつの予定というのが、平たく言ってしまえばデートだった。しょーもないことに、私はライブと同日に男性との食事の予定を入れていた。当然こちらもおじゃんである。以前参加した合コンで知り合った人で、私はこの人の顔面と体格を非常に好ましく思っていた。その人の顔が好きかどうかというのは、合コンなどの短期決戦の場において決定打でしかない。逆に性格なんかどうでもよかった。ぴんときた私は「好きな男性のタイプは?」「ガタイのいい人」などというようにジャブどころかストレートにモーションをかけた。そうしてようやく二人で食事にこぎつけたというのに(ライブのついでではあったが)、あんまりだ。

 その人の顔と体格はジャニーズWEST桐山照史にそっくりだった。私は桐山照史という人間が好きだ。私は所謂ジャニオタではないのだが、ジャニーズというものに強く惹かれていた時期があった。誰しもが一度は通る道である。桐山照史を知っていくうちに、私は「ジャニオタ未満」から卒業していた。ただただ「桐山照史を好きな人」になっていた。グループのCDを買うわけでもない、コンサートに行くこともない、ただ彼を見て胸を苦しくさせるだけというなんの生産性もない存在に滑り落ちた。桐山照史という人は、私の抱く理想を反映させ押し付けるのにこの上なく適していたのだ。

 そんな理想の外見がいたのだ。何もせずにいろという方が難しい。まずラインを交換したその直後にその人の名前を桐山照史に変えた。これが良かった。私は絵文字や顔文字を多用された文章が苦手だ。それが異性だというのならなおさら。彼はそういうタイプだった。文末に「♪」などつけられようものなら本来はスマホを放り出している。しかしラインの相手は「桐山照史」なのだ。桐山照史もそういううっとおしいくらい可愛らしい文章を扱う人だ。私は途中から本当に桐山照史とラインをやりとりしているような錯覚に陥ってきて、いよいよ興奮していた。そうして彼の本名を忘れた。今でも苗字はまったく思い出せない。

 罰が当たったと思うことにした。私はあらゆるものに誠意を欠いた。デートの約束をわざとライブの日にブッキングさせた。楽しいことを同時に済ませようとした。彼を適当に扱った。彼ではなく桐山照史を見ていた。今でもそうだ。そうして楽しいことを優先させるあまり仕事への誠意を欠いた。この状態でライブハウスへ行くのはテロ行為だと書いたが、すでに職場に私はテロを行っている。体調不良を感じながらも、来る週末に向けて調整するために出勤し続けたのだ。間違いなく、極めて悪質なテロ行為である。こうつらつら並べてみただけで今後も罰が待ち受けていそうな重さを感じている。反省ばかりの一週間だった。とても仕事に行きたくない。

 

 そんな私のことはこの際どうでもいいからとりあえず全人類ブレチャ聴いてくれよ。話はそれからなんだ。本当に素晴らしいんだ。

 


brainchild's HUSTLER Official Digest Movie